交通犯罪を犯した受刑者が収容される「交通刑務所」と呼ばれる施設がある。交通刑務所というのは通称だが、いくつかの刑務所はその名で知られている。
そのように特別な名で通る刑務所だから、一般的な刑務所とどのような違いがあるのか気になる方もいるだろう。そこで、交通刑務所について調べてみた。
交通刑務所にはどのような罪を犯した者が収容されるのか
交通刑務所には、交通事故や悪質な道路交通法違反等の交通犯罪を行い、実刑判決を受けた者が収容されている。
一般受刑者との区分があるのは、その犯罪が不注意による交通事故など、誰しも起こり得る可能性の性質のものであるからだろう。
ただし、悪質な交通事犯も存在する。その場合には処分のされ方も変わってくる。そういった事情について今から詳しく見ていこう。
交通犯罪の刑事処分
そもそも、刑事処分を受けるのはすべての交通違反というわけではない。例えば、信号無視なら2点の交通違反となり、反則金の支払いなどの行政処分が下されるだけで済む。
6点以上の違反といえば、酒酔い運転、無免許運転、速度超過(一般30km以上/高速40km以上)など様々だが、それらで捕まった場合、裁判所によって「罰金、禁固、懲役」といった刑罰が下される。
先に「交通刑務所には、交通事故や悪質な道路交通法違反等の交通犯罪を行い、実刑判決を受けた者が収容されている。」と書いたが、
もし執行猶予が付いたら、身柄は解放されすぐに刑務所に入らなくてもよく、無事に執行猶予期間を過ごすことができればその刑罰がなかったことになる。
ここからも分かるように、罰金刑や執行猶予ありとはならずに実刑が下されるというのは重大な罪の重さを表している。
交通犯罪で実刑となるケース
悲惨な死亡事故を起こした被告人に対して執行猶予がついたり罰金刑の判決が下されたりして、遺族が不満を訴えるというようなニュースをよく見かける。
実際、死亡事故が通常の過失であり初犯の場合には、実刑とならないことがほとんどだ。
では、交通犯罪で実刑となるケースとはどういうものか。
執行猶予のつく可能性がある条件に、
- 刑罰が「3年以下の懲役・禁固」もしくは「50万円以下の罰金」
というものがある。
つまり、3年を超える刑の場合には執行猶予がつかず、実刑判決となって刑務所に入ることになる。
以下、交通違反とその罰則だ(参照:交通事故・違反の法務相談室「刑事上の責任(交通違反・交通事故の罪と罰)」)。
違反内容 | 量刑 |
---|---|
危険運転致死傷 | ①通常:一年以上の有期懲役 |
②アルコール又は薬物の影響:人を負傷させた者は十二年以下の懲役、人を死亡させた者は十五年以下の懲役 | |
②自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気の影響:人を負傷させた者は十二年以下の懲役、人を死亡させた者は十五年以下の懲役 | |
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱 | 十二年以下の懲役 |
過失運転致死傷 | 七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金 (ただし、その傷害が軽いときは情状により、その刑を免除することができる。) |
無免許運転による加重 | ①のとき:六月以上の有期懲役 ②のとき:人を負傷させた者は十五年以下の懲役、人を死亡させた者は六月以上の有期懲役 ③のとき:十五年以下の懲役 ④のとき:十年以下の懲役 |
一般的にいえば、飲酒運転など悪質な運転による死亡事故を起こした場合などでは執行猶予になることはほぼありえない。
交通刑務所に収容されるケース
交通犯罪で実刑判決を受けたからといって、すべての受刑者が交通刑務所に入るわけではない。
一般的に交通刑務所には犯罪傾向の低い受刑者が収容されている。犯罪傾向の低い、というのは初犯であり、刑期の短いことを指す。服役期間で多いのは、刑期2年前後だそうだ。
また、脱走などの恐れがない受刑者というような条件もある。これは、あとで見るように交通刑務所は比較的自由度の高い施設となっているのが関係している。
一方、再犯や累犯、悪質な交通犯罪によって重い刑罰を受けた者は一般の刑務所に入ることになる。
交通刑務所は全国に2か所しかない施設
交通刑務所は法的に定められた名称ではない。あくまでも通称であり、そのように呼ばれている施設は全国に2カ所しかない。
名称 | 所在地 |
---|---|
市原刑務所 | 千葉県市原市磯ケ谷11-1 |
加古川刑務所 | 兵庫県加古川市加古川町大野1530 |
現在、東日本、西日本にそれぞれ一カ所ずつある。
市原刑務所は「交通刑務所」という名の通り、交通事犯の受刑者を専門とする施設だ。
一方、加古川刑務所については交通違反者以外の一般受刑者を収容する区画も併設されている。
交通刑務所は一般の刑務所よりも塀が低い
おはようございます♪先日ゴルフの帰りに通りかかった市原刑務所!敷地の外から中を見れるんです!確か日本に2つでしたかね交通刑務所と呼ばれる場所は詳しく知りたい人は調べて見て下さい!他の刑務所より緩いといいますが絶対に入る事の無いように安全運転お願いします!今日も怪我なくご安全に pic.twitter.com/vi4HjLRC5X
— グルメ船長スロ~ライフ♪ (@0w310YzkOUcnFN0) January 12, 2020
刑務所といえば、高い塀に囲われた厳重な施設であるのがふつうだが、市原刑務所には高い塀はない。
ここに入っているのは暴力や殺人など故意の罪を犯したわけではない、交通犯罪による刑期の短い受刑者たちだ。
脱獄のリスクは限りなく低く、この刑務所は拘禁というよりも更生という意味合いの強い施設となっている。
加古川刑務所については一般受刑者の区画もあるため、市原刑務所ほどの開けた施設とはなっていないが、交通エリアにおいては自主性を重んじたゆるやかな管理がなされている。
交通刑務所の4つの寮
施設内部においても脱走や危険行為を防ぐための鉄格子や施錠をなるべく設置しないようにされている。
とはいえ、あくまでも刑務所であるから、きちんとした管理体制が整えられている。交通刑務所に入ると、
- 新入寮
- 準開放寮
- 開放寮
- 希望寮
というふうに生活環境が移行していく。
施設に入ったばかりの頃は「新入寮」といって鍵のついた独房で過ごし、徐々に自由度が高い部屋へと移っていく。
生活態度が良く、刑期が残り少なくなってくると「開放寮」になるが、そこは鍵も鉄格子もなく、自由に移動できる。ただし、他の受刑者と喧嘩するなど何か問題行動を起こせば、独房へ戻されるというような規則は設けられている。
刑務作業、交通安全等の更生プログラム
交通刑務所は自主性を重んじた開放的な施設となっているが、あくまでも受刑者のための施設であるから、一般の刑務所と同じように刑務作業・職業訓練も行われている。
ただしこれも開放的処遇として、外部通勤作業にも取り組んでいるということだ。
収容生活の中で一定の要件を満たしている受刑者については、刑事施設の職員の同行なしに刑事施設の外の民間の事業所に通勤して作業に従事させたり、職業訓練を受講させたりしています。
外部通勤作業は、受刑者の自律心や責任感に基づいて、社会的な職業集団における自己の地位や役割を認識させ、一般社会における人間関係の在り方を学ばせ、また、社会的視野の拡大を可能にする等、受刑者が自主的にその行動を規制することにより、円滑な社会復帰を図るための制度です。
更生プログラムも受講することになり、これは主に交通安全に関する指導を受けることになる。
かつて交通事故で身内を失った遺族との話し合いや、アルコール依存の治療プログラムなど、日々社会復帰を目指すための生活が送られている。
まとめ
今回は交通刑務所について調べてみた。一般の刑務所と比べると受刑者の自律性を重んじた施設づくりがなされているため、開放的な印象がある。
この施設に収容されるのは初犯で短い刑期など犯罪傾向の低い受刑者が対象となっている。とはいえ、実刑判決がくだされるほどの重大な交通犯罪を行った者であるのには相違ない。飲酒運転による死亡事故など、悲惨で悪質な事件を招いてしまった受刑者もいるだろう。
交通事故は誰しも起こしうるものであるが、交通刑務所について調べてみたことで、常日頃から油断なく、事故を起こさないような運転を心掛けなければいけないという思いが一層引き締められた。