「あおり運転」は深刻な交通問題のひとつに挙げられている。2017年のあおり運転のトラブルがもとになって起きた死亡事故や停車させたドライバーに暴力をふるう男とその様子を撮影していた女の事件など、ショッキングなニュースが後を絶たない。
もし自分があおり運転に巻き込まれたらと想像すると恐怖すら感じるが、実際に起こり得るトラブルなので冷静に対処できる備えだけはしておきたいものだ。
あおり運転の対策
煽り運転(あおり運転)という言葉はもともと「威嚇や嫌がらせを行う危険運転」という意味で使われていた。
その具体的な内容については後述するが、例えば車間距離を必要以上につめるといったものだ。車のすぐうしろを走ってあおることを英語では「テールゲーティング」という。
しかし近年では、車のトラブルから派生した暴力行為も含まれた広い意味で浸透している。運転中の暴力行為や運転を起因とする暴力行為は「ロード・レイジ」と呼ばれている。
いずれのあおり運転にせよ、加害の性質が強いためトラブルに巻き込まれた側としては身の危険さえ感じる出来事だ。あおり運転の被害を受けたとき、どのように対処すればいいのか。その対策方法を見てみよう。
1. 「関わらない」という意思表示
ハンドルを握ると人が変わるといった話をよく耳にするが、そういうタイプでなくとも、煽られて不愉快な気分にさせられたとき、つい相手の調子に合わせて張り合ってしまう人も少なくない。
こちらはちょっとした反発のつもりでも、それがもとになりトラブルがさらに拡大し、しまいに暴力事件の被害を受けたというケースもある。場合によってはこちらが加害者になってしまうおそれもある。
煽りドライバーと張り合って、スピードを上げたり急に落としたり、あるいは道を譲らなかったりするような態度は自ら危険を招くのと変わりない。
また、相手が妙な運転をしてきたとしてもパニックにならず、「安全運転のために今、何をすべきか」を第一に考えればトラブルも回避しやすくなるだろう。
2.停車は安全な場所
あおり運転の対策はとにもかくにも「安全第一」に基づいて行動することだ。自分の判断に迷ったら、ベストな安全策を考えればいい。
こちらが「あなたの煽りとは関わりません」という態度で運転していても、悪質な煽りドライバーの場合には執拗にあおりを続けたり、追いかけ回してきたりするケースがある。
そのため、相手側が停車するように求めてきても応じる必要はない。たとえ状況的に、煽りの原因としてこちら側に何かしら非がありそうな場合でも、相手に付き合う必要はない。
どこまでも追いかけてくるなら、人の助けを呼べるような場所に行ってから停車しよう。高速道路ではサービスエリアやパーキングエリアが適切だろうし、市街地では人の多い店や施設、すぐに見つかるなら警察に向かうのもいいだろう。
3.むやみに外に出ず、通報
車をどこかで停車しても、煽りドライバーと直接コミュニケーションをとろうとしないことだ。言うまでもないが、相手は冷静に話し合って事を解決しようとは望んでいない。
車を止めたら不用意に外には出ず、まずはドアをロックし、窓も閉めて通報するようにしよう。相手が車に近づいてきても窓やドアを開けず、通報したことを伝えるのがいい。ナンバーをひかえておくことも大切だ。
繰り返しになるが、たとえ「こちらにもトラブルの原因がありそうな気がする…」と感じていたとしても、「自分はまったく悪くないから、正当な主張ができる」と考えていたとしても、何よりもまず身の安全の確保だ。
あおり運転の対策
あおり運転を起こさせないための対策も必要だ。
1.ドライブレコーダーを搭載
交通事故が起きたとき、当事者間の言い分が異なるというケースがしばしば起こり得る。細かな状況を客観的に確認できない場合、とくにこの点が厄介になる。最悪、相手が都合の良いように虚偽の証言をすることだってある。
こういう事情から、あおり運転対策としてドライブレコーダーを取り付けるドライバーが増加している。今のところ、ドライブレコーダーの搭載義務はないが、国土交通省がドライブレコーダー搭載の義務化を検討している。
ドライブレコーダーを搭載することで事件があった際の証拠となる。また、その搭載を表すステッカーを貼っておくだけでもあおり運転の回避につながることもあるかもしれない。
2.適切な運転
煽る側が悪かったとしても、そのトラブルのきっかけをこちらが作ってしまっていることもあり得る。
例えば周囲の状況に合わせずにマイペースにのんびりと走っている場合などがこれに当たる。違反でなくとも、ほかのドライバーにストレスをもたらしてしまいかねない。
それがもとで煽り運転の被害にあった場合、それでもやはり悪いのは相手側なのは言うまでもない。ただ、こちらの行為はあおり運転のトラブルの「原因」ではなくとも、「きっかけ」にはなっている。
このきっかけを減らすには、適切な運転を心がけるよりほかにはない。
煽り運転(あおり運転)の種類
あとで解説する「あおり運転に関する法律」の理解をしやすくするためにも、ここで簡単に煽り運転(あおり運転)の種類を挙げておこう。
1.車間距離を極端に狭める
あおり運転といえば、まずこの行為をイメージする方も多いだろう。前方の車両にぎりぎりの車間距離まで近づくような行為だ。
これは片側一車線や狭い道路など、前の車がゆっくりと走り、交通の流れが悪くなった時に発生しやすい。そういう場合には、相手を先に行かせたり、その状況に応じた運転をしたりするのがいい。
何か別の原因で車間距離を狭めてきたとしても、相手と挑発するような運転は避けるべきだ。急にスピードを落として後方の車を驚かすなどの反発も、事故を招く原因となって危険な行為だ。
2.無理な割り込み・横からの幅寄せ
前方に無理に入り込んでくる。車両の横から距離を詰めてくる。そういった行為もあおり運転の一つだ。ケースとして多いのが、追い抜きの際に幅寄せしてぎりぎりの距離で前方に入る状況だ。
これはあおり運転の意図があった場合に限らず、判断を誤って結果的に幅寄せのように追い抜いてしまったというケースもある。
いずれにせよ、された方は事故の起きないように対処し、決して感情的にはならずにその状況を回避することだけを考えよう。
3.正当な理由のないクラクション
正当な理由のないクラクションも煽り運転(あおり運転)に入る。
道路交通法の54条2項には「車両等の運転者は、法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き、警音器を鳴らしてはならない。ただし、危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない。」と規定されています。
威嚇等を目的にクラクションを使用した場合には違反行為に該当する。
4.不必要なパッシング・ハイビーム
威嚇や嫌がらせを目的としたパッシング・ハイビームもあおり運転だ。
この行為は故意でない場合もあり判断がつきにくいが、あおり運転であればその他のあおり行為も一緒に行ってくることが多い。いずれにせよ、落ち着いて安全運転を第一に、自分の身の危険を回避することだけを考えよう。
5.執拗な追い回し
悪意をもって追走するのもあおり運転だ。された方は怖くなったり腹が立ったりで、ついスピードを上げるなど相手に対抗したくなるが、事故につながるのでやはり冷静な対応が必要だ。
こちらが直接応じるまで追いかけてくると思って車を止めると暴力をふるわれたといったケースもある。追い回してくる場合にも、対応策は同じだ。
停車するなら人気が多い安全な場所を選び、迷わず通報するのがいい。その間、むやみに窓や戸を開けてはいけない。
6.急ブレーキ
急ブレーキをかけて後方の車を威嚇する行為もある。これはあおり運転をされた仕返しとしてもよく見られる。
もし後方からあおられて、こちらがわざと急ブレーキをかけて追突した場合、その事故の責任はこちらが問われることになる。
7.ブロッキング(後方車の追い越しを妨害)
ブロッキングとは走行を阻害する行為で、後方から車の追い越しを妨害するものだ。
後方の車が車線変更しようとするとそれに合わせて前の車が車線変更するといった具合に追い抜かせないようにする。
あおられた側は挑発に乗らず、無理せずに運転するのが大切だ。
令和2(2020)年6月30日から「妨害運転罪」が創設
あおり運転は悪質で危険な運転行為だが、それ自体を取り締まる法はこれまで存在しなかった。
そのためあおり運転に該当する道路交通法として以下のような罰則が適用されていた。
車間距離保持義務違反 | 適切な車間距離を保っていなかった場合に該当。 | (一般道) ・5万円以下の罰金 ・違反点数1点、反則金6千円 (高速) ・3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金 ・違反点数2点、反則金9千円 |
進路変更禁止違反 | 後続車両の進行を妨害する場合に該当 | ・違反点数1点、反則金6千円 |
急ブレーキ禁止違反 | 正当な理由なく、故意に急ブレーキをかけて減速や急停止をした場合に該当 | ・3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金 ・違反点数2点、反則金7千円 |
追越しの方法違反 | 左側から追い越すなどの場合に該当 | ・3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金 ・違反点数2点、反則金9千円 |
警音器使用制限違反 | 正当な理由なく、定められた場所や状況以外でクラクションを使用した場合に該当 | 反則金3千円 |
減光等義務違反 | 夜間、走行を妨害する目的でハイビームを使用した場合に該当 | 違反点数1点、反則金6千円 |
安全運転義務違反 | 危険な運転方法により他の車の走行を妨害した場合に該当 | ・3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金 ・違反点数2点、反則金9千円 |
昨今ますますあおり運転の問題が深刻になるにつれ、2019年、警察庁は道路交通法に「あおり運転」に関する規定を新設、厳罰化で免許取り消しとする方針を自民党の交通安全対策特別委員会において示した。
そして令和2年6月に道路交通法を改正。あおり運転を取り締まる「妨害運転罪」が創設された。
これらの行為が「あおり運転」として取締りの対象となり、違反1回で免許取消処分となり、最長5年懲役刑や罰金など厳しい罰則が科されることになる。
(参照:政府広報オンライン「一発で免許取消し!『あおり運転』が厳罰化!」)
例えば、あおり運転でよくみられる極端に車間距離を詰める行為でも、罪と認められれば25点の即免許取り消しだ。
25点といえば、無免許運転、酒気帯び運転と、交通違反のなかでもトップクラスの重罪だ。これだけでも、あおり運転が危険視され、厳しく処罰されるようになったことがよくわかる。
まとめ
今回は「あおり運転」について解説した。あおり運転は加害の性質が強い危険行為のため、被害に遭った場合には何よりの身の安全の確保が重要だ。
相手がどんな態度で臨んできても、「関わらない」という意思表示をすべきだ。直接話し合う必要はない。運転中は事故が起こらないように気をつけ、停車するのも人気の多い安全な場所を選び、ただちに通報しよう。
警察が来るまで、くれぐれも車からおりてはならない。あおり運転の対策としてドライブレコーダーを搭載するドライバーが増えている。実際に巻き込まれたときの有効な証拠となるし、ドライブレコーダー搭載中のステッカーを貼っておくだけでも予防策になるだろう。
あおり運転は悪質で危険な運転行為だが、それ自体を取り締まる法はこれまで存在しなかった。そこで令和2年6月に道路交通法を改正。
あおり運転を取り締まる「妨害運転罪」が創設された。あおり運転と認められると、一発免許取り消しになる厳しい処罰だ。あおり運転の厳罰化によって、これに関する事故や事件が減ってくれることを祈るばかりだ。